2012年6月4日月曜日

カウンセリングサービス■心理学講座「心がショックから立ち直っていくプロセス(3)〜第三段階:ファンタジーと抑うつ〜」



●第三段階:ファンタジーと抑うつ。

現実を受け入れるということは、そこで感じている素直な感情と向き合い始める、ということです。よって、痛みや悲しみ、寂しさ、ショック、罪悪感、無力感、絶望などの感情と直面するようになるんですね。
それは新しい段階に踏み出す一歩なのですが、心はその感情に対して様々な"反応"を表すようになります。
感情を受け入れるのがあまりに辛くて現実逃避をしたくなったり、その重みに耐えられずに絶望に打ちひしがれたり、また、ひどく無気力になってしまったり。

実はここが心のケアがもっとも必要とされる段階で、例えば、1995年の阪神大震災の場合は、震災から約3〜4ヶ月後にこの状態が訪れていましたかと思います。
しかし、そこには個人差が当然あって、さらに半年、場合には数年後にこの状態に到達するケースも珍しくありません。

何事も焦りは禁物ですね。特に、そのできごとから何年も経つのに、まだこの状態だと「自分は本当に弱くて情けない」と自分を責めたくなるかもしれません。
でも、本当はそんな必要はないんですね。
フラッシュバックが幾度となくやってきて、再び抑うつ状態になってしまうことだって全然悪いことじゃありません。むしろ当然のことなんです。
心が感じるままに、いることがとても大切なんですね。

さて、具体的には次のような感覚を持つ方が増えていきます。


退屈について何をすべきか

「あれは夢だったんじゃないかと思う。」(無かったことにしたい)
「あの人はどこかでまだ生きてるような気がするんだ」(ファンタジー)
「無気力になってしまって、動かなきゃいけないのに何もできない」(抑うつ状態)
「周りの人はもう立ち直ったような気がして、自分一人が取り残されてる気がする」(孤立感、分離感)
「未だに立ち直れないなんて恥ずかしくて人には言えない」(自責、孤立感)
「もうあれは済んだこと。今更何やっても仕方ない」(諦念)
「結局元には戻れないんだ。もう終わりだ」(絶望)

そんな気持ちが訪れます。

痛みを持ち続けることがあまりに辛いので、ある種の"現実逃避"を招くんです。
これは第一段階でのパニック状態よりももっと静かに、確信的に起こります。

そして、それはより強い絶望感や将来への嘆きの感情を招きよせることもあるのです。

第一段階の不安やパニック状態のときや、第二段階の怒りや罪悪感が強い状態ではある種、アクティブに動けることも多いんですね。

しかし、この段階に入ってくると、表面上は元の状態に戻ったように見えて、心の中にぽっかり穴が空いていたり、自分を見失ったままであったり、気力が湧いてこなかったり、ひたすら恐怖心が心の中を渦巻いていたりする状態で、「これから先」のヴィジョンが全く見えないるのです。

だから、震災や病気宣告、死別・離縁などの大きなショックを受ける問題などの場合、未来への絶望や現実の苦しみから死を意識し、実際に自ら命を断ってしまう方も少なくありません。

人間関係の問題でも、仕事ならば辞めたくなり、家族ならば縁を切りたくなるくらいのことは起こりうる段階です。


だからこそ、できるだけ気持ちに寄り添ったケアが必要なんですね。
じっくり傍にいて、否定せずに、話を聞いてあげる存在が何よりも必要になってくるんです。すなわち、これはカウンセリングスキルですね。

でも、現実的には、"誰にも分かってもらえない"孤独感を持つこともあります。だから、「話を聴いてあげるよ」と言ってもなかなか心は開きにくいのが現実。じっくり待ってあげることが大切ですし、また、安易に「あなたの気持ちは分かるよ」と言われると、かえって傷ついたり、憤りを感じたりするのです。
いわゆる"共感"で、「そうかそうか。ふんふん」とただ受け入れてあげることがまずは大事だと思っています。

また、この段階は原因となるできごとから随分遅れてやってきます。そして、表面的には元の姿に戻ったようにも見えるので、周りの人は「もう、あいつは大丈夫」なんて目で見ていたりします。
そこで「まだしんどいんだよ」とはなかなか言えないこともあるんですね。
「大丈夫そうに見える奴ほど、意外と心に傷を負ってる」状態です。

また、3〜4ヵ月後と言うと震災ならば復興が本格化し始める頃でもあります。そうすると、周りは前向きに復興に向けて踏み出しているのに、自分は全然そんな気分にならない場合もあります。
そうすると、「周りから取り残された」ような孤独感を感じますよね。
これまた、周りに言いにくいことですし、一人で抱え込みやすいものと思います。


そして、半年、1年、2年と経っていくと、「風化」が進みます。「過去のこと」でも、何でもなく「忘れ去られていく」んですね。
情報化社会は次から次へと新しいニュースソースが生まれてきます。また、それぞれに忙しい毎日があると、個人のできごとは忘れ去られ易いんですね。
未曾有の大災害だって、「大丈夫」なところばかりが報道され、「何となくもう立ち直ってしまった」みたいな見られ方をすることもあります。
そうするとまだまだ「現在進行形」の自分とのギャップを感じてしまい、苦悩は深まります。

こうなるとどんどん一人の殻の中に閉じこもるようになり、「死にたい」という思いが強くなっていきます。

実は、阪神大震災のその後、カウンセリングでその話題が出なかった年はないんですね。
10年経っても、15年経っても、何らかの影響を残しているものです。(それは戦争でも同じことでしたよね)

それは震災のような大きなできごとでなくても同じことが言え、事故や離婚、失恋、リストラなどの後に抑うつ状態や絶望に襲われるのが事後、数ヶ月〜数年ということもあるんです。

じっくりその人に付き合ってあげると、たとえ5年、10年前のできごとであっても、リアルに現在進行形の事例によく出会います。
そこで無理やり前を向かせるのは酷ですし、「もう過ぎたことだよ。忘れなよ」と言ってしまうのは、時に死刑宣告にもなりやすいのです。
だから、自分の考え方や感情は横に置き、相手の気持ちを尊重し、大切にしてあげることこそが大切だと思うのです。

とはいえ、この段階になってくると落ち着きを取り戻し、前向きになりたくなり、いつまでもここに居ちゃダメだよな、などの思いを抱くのも事実ですね。


だから、
「俺が一緒にいるじゃないか」
「お前ならきっと大丈夫だと思う」
「いつもあなたのことを思ってる」
「あなたはもう大丈夫よ。元気になった」
など、時には励ましたり、応援したりすることも効果的なんですね。
その言葉で活力が蘇ることもありますから。

こうした段階を経て人の心は徐々に現実を受け入れていくのです。

すなわち、「もう、ああだこうだ言ったって始まらないよな。前向かなきゃな」とある種の"前向きな諦め"が出てきます。

「過ぎたことにこだわってても辛いだけですよね。そろそろ次に向かおうと思います」と力強さが出てきます。

心は死にません。
そして、何度も何度も蘇る強さを持っています。

もちろん、前向きになった次の瞬間に、やっぱりダメだ、と後ろ向きになってしまうこともあるでしょう。
それでいいんです。

そこで、また自分を責めたら、立ち上がろうとしてる人を蹴飛ばすのと同じで、次に立ち上がる気力を奪ってしまいます。

それも無理のないことだよな、と寛容に受け入れて上げられるのが理想ですね。

>>『心がショックから立ち直っていくプロセス(4)〜第四段階:再誕生と感謝〜』につづく

 



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